マッチレビュー 2018 ROUND 17 ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ vs.ブルズ text by 村上晃一
コラム7/2(月) 12:18
ノーサイドの瞬間、シンガポールのナショナルスタジアムに歓喜の雄叫びが響き渡った。ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズの選手、サポーターが一つになり、喜びを分かち合う。スーパーラグビー参戦3年目にして初のシーズン3勝目は、ハラハラ、ドキドキの連続だった。2度の逆転を許し、10点差をつけられた時間もあった。ヴィリー・ブリッツキャプテンは、足を痛めながら最後までフィールドに立ち、全身全霊でチームを引っ張った。「ファンの皆さんに、サンウルブズは『ネバーギブアップ』だということを約束しました。けっして、あきらめません」。
スーパーラグビー2018は各国代表のテストマッチシリーズを終え、約1カ月ぶりに再開。6月29日~7月1日にかけ第17節7試合が行われた。サンウルブズは30日、シンガポールで南アフリカのブルズと対戦。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが腰痛の手術のため、ニュージーランドへ帰国するアクシデントがあったが、残りの3試合はトニー・ブラウン アシスタントコーチがヘッドコーチ代行を務め、これまでと同様の強化を続けることになった。ブルズ戦のメンバーは日本代表資格のない海外出身選手を軸に、6月の日本代表戦ではプレー時間の少なかった選手(PR浅原拓真、LOヘル ウヴェ、FL布巻峻介、NO8徳永祥尭、SH内田啓介、WTB山田章仁)が先発。フレッシュなメンバーで臨んだ。
キックオフは、午後7時55分(日本時間8時55分)。外気温は29度だが、スタジアムは密閉されてはいないものの空調設備があり、外の蒸し暑さは多少和らいでいた。前日、トニー・ブラウンHC代行は「サンウルブズは、スーパーラグビーのどのチームにも勝てるチームになってきています。まずは明日、3勝目を狙います。スピーディーな展開ラグビーでブルズを疲れさせたい」とコメント。試合はその言葉通りの展開になった。
立ち上がりはサンウルブズペース。前半2分、FBゲラード・ファンデンヒーファーのハイパントキャッチから攻め、CTBマイケル・リトルが防御網を突破し、WTB山田章仁、CTBジェイソン・エメリーがつなぎ、最後はリトルのパスを受けたSOヘイデン・パーカーが左コーナーに飛び込む。18分には、ラインアウトからのサインプレーでHOジャバ・ブレグバゼが抜け出し、サポートしたSH内田啓介が右中間にトライ。この日までプレースキックの成功率が97%というヘイデン・パーカーが簡単ではないゴールを2本とも決めて、14-0とリードする。
しかし、22分、ファンデンヒーファーがタッチキックをチャージされてブルズのCTBジェシー・クリエルにトライを許すと、27分にもクイックスローのミスからまたしてもクリエルにトライを奪われる。スコアは、14-14。キックを使わず、ボールを動かすサンウルブズに対して、ブルズはスクラムとラインアウトからのモールで圧力をかけてきた。前半36分には、モールに対するディフェンス時の反則でブリッツがシンビン(10分間の一時退場)となり、14人で戦うことを余儀なくされる。終了間際にはタッチに出すべきキックが出ずにカウンターを許してトライを奪われ、前半は14-21で折り返した。
主導権を握りながら、リードを奪われる展開は嫌な空気が流れてもおかしくないが、サンウルブズは「次にやるべきプレーに集中しました」(CTBマイケル・リトル)と、ミスをした選手を励まし、タフに戦い続けた。後半開始早々にブルズのSOハンドレ・ポラードにPGを決められたが、ブルズの波状攻撃を粘り強いタックルで止め続け、後半6分には、ラインアウトからの左オープン攻撃でWTBセミシ・マシレワが抜けだし、ファンデンヒーファーが左コーナーにダイブ。パーカーが難しい角度のゴールを決めて、21-24と差を詰めた。
直後、SH内田啓介に代わって田中史朗が投入される。「ちょっとゲームのテンポが遅いように思っていました。相手は疲れていたので、テンポを上げてついて来られないようにしました」。PKから速攻を仕掛けるなど、田中はグイグイと攻撃をリードする。「フミが勢いを変えてくれた」(ブラウンHC代行)。9分にトライを奪われるが、サンウルブズの勢いは止まらなかった。12分、ブリッツが山田のパスが相手の手に当たってコースが変わったところをキャッチしてトライ。28-34と6点のリードを奪われていた25分には、自陣でくぎ付けになったディフェンスから切り返す。まずは、マシレワの力強い走りでブルズ陣に入り、後半17分に交代出場の中村亮土がタックラーを惹きつけてブレグバゼにパスを送る。次にパスを受けたエメリーが左タッチライン際にロングパス、最後は後半20分に投入されたFLラーボニ・ウォーレンボスアヤコがタックルを受けながらリトルにつないで中央トライ。パーカーのゴールも決まって、35-34と逆転した。
その後はブルズの強力FWに波状攻撃を受け、ポラードにPGを決められ、35-37で逆転される。しかし、すでにブルズは運動力が落ち、余力が残っていなかった。サンウルブズは35分、ウォーレンボスアヤコが逆転トライをあげて42-37と勝ち越す。36分、最後の反撃に出たブルズにディフェンスを突破されそうになったが、ブルズのクリエルをリトルが倒し、中村がボールをがっちりつかんで反則(ノット・リリース・ザ・ボール)を誘った。中村の値千金のターンオーバーだった。その後は最後までブルズ陣で戦ってノーサイド。多くのサポーターが天に拳を突き上げた。
「地面に落ちたボールへの対応はサンウルブズのほうが早かった」と、ブルズのジョン・ミッチェルHC。試合直前、布巻は勝つために必要なことについて、「ブルズよりも多くアクションする。ミスしても次々にアクションして、相手を疲れさせたい」と語っていた。まさに、そういう試合ができたということだろう。
フルタイムのスタッツ(統計数値)では、ボール保持時間の割合でサンウルブズは42%、地域獲得では38%。苦しい戦いだったことが、ミスタックルは、ブルズの18回に対し、8回しかなく、この日の勝因が堅いディフェンスにあったことを証明している。また、戦略的に使ったキックは、ブルズの35に対して27と少なく、キックを多用した6月の日本代表とは異なる戦い方だった。HO堀江翔太、FLリーチ マイケルなど日本代表の主力組のコンディションを重視し、プレー時間の少ない選手で戦っての3勝目は価値がある。メンタル面も含めて、サンウルブズがチームとしてレベルアップしている証だった。ヘイデン・パーカーはこの日、6本のゴールをすべて成功させた。97%超の成功率は神業の域である。
「プロップとしてはスクラムでプレッシャーをかけられてしまい、そこで勢いを作れなかったことは反省しています」と浅原拓真がコメントしたように、スクラムでは苦しむ場面もあり、引き続き向上が必要だが、大事なところは耐え、スコアに直結する場面はなかった。前半、無理なクイックスローイングから失点。これについてはブラウンHC代行が「ブルズに対しては、クイックスローイングで攻めようと話していた。そうした動きが後半に生きたと思います」と、プレー時間を多くしてブルズを疲れさせるプランを遂行した中でのミスだったと説明した。
サンウルブズでは初めてNO8で先発した徳永は、勝因について「布巻、ヴィリーを筆頭にジャパン組とサンウルブズ組が早くコネクトできたこと」と説明した。日本代表とは別に調整を続けていたメンバーと日本代表選手を、この2人が中心になってまとめたということだろう。攻撃面はシーズン序盤から機能していたサンウルブズだが、何よりディフェンスの向上がこの日の勝利をもたらした。ブラウンHC代行は「失点は多かったのですが、ディフェンスは今季一番良い試合だったのではないでしょうか」と評価した。「チームとして自信がついて来ました。前に出るシステムがシーズン序盤はうまくいきませんでした。それが機能し始め、止めるだけではなくターンオーバーするところまでできはじめています」。
今シーズンは残り2試合となった。オーストラリアに乗り込み、同国代表選手を多数擁するワラターズ、そして、5月12日に秩父宮ラグビー場で勝利したレッズと戦う。この日のディフェンスをさらに磨くことができれば、4勝目、5勝目も狙えるはずだ。
スーパーラグビー2018は各国代表のテストマッチシリーズを終え、約1カ月ぶりに再開。6月29日~7月1日にかけ第17節7試合が行われた。サンウルブズは30日、シンガポールで南アフリカのブルズと対戦。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが腰痛の手術のため、ニュージーランドへ帰国するアクシデントがあったが、残りの3試合はトニー・ブラウン アシスタントコーチがヘッドコーチ代行を務め、これまでと同様の強化を続けることになった。ブルズ戦のメンバーは日本代表資格のない海外出身選手を軸に、6月の日本代表戦ではプレー時間の少なかった選手(PR浅原拓真、LOヘル ウヴェ、FL布巻峻介、NO8徳永祥尭、SH内田啓介、WTB山田章仁)が先発。フレッシュなメンバーで臨んだ。
キックオフは、午後7時55分(日本時間8時55分)。外気温は29度だが、スタジアムは密閉されてはいないものの空調設備があり、外の蒸し暑さは多少和らいでいた。前日、トニー・ブラウンHC代行は「サンウルブズは、スーパーラグビーのどのチームにも勝てるチームになってきています。まずは明日、3勝目を狙います。スピーディーな展開ラグビーでブルズを疲れさせたい」とコメント。試合はその言葉通りの展開になった。
立ち上がりはサンウルブズペース。前半2分、FBゲラード・ファンデンヒーファーのハイパントキャッチから攻め、CTBマイケル・リトルが防御網を突破し、WTB山田章仁、CTBジェイソン・エメリーがつなぎ、最後はリトルのパスを受けたSOヘイデン・パーカーが左コーナーに飛び込む。18分には、ラインアウトからのサインプレーでHOジャバ・ブレグバゼが抜け出し、サポートしたSH内田啓介が右中間にトライ。この日までプレースキックの成功率が97%というヘイデン・パーカーが簡単ではないゴールを2本とも決めて、14-0とリードする。
しかし、22分、ファンデンヒーファーがタッチキックをチャージされてブルズのCTBジェシー・クリエルにトライを許すと、27分にもクイックスローのミスからまたしてもクリエルにトライを奪われる。スコアは、14-14。キックを使わず、ボールを動かすサンウルブズに対して、ブルズはスクラムとラインアウトからのモールで圧力をかけてきた。前半36分には、モールに対するディフェンス時の反則でブリッツがシンビン(10分間の一時退場)となり、14人で戦うことを余儀なくされる。終了間際にはタッチに出すべきキックが出ずにカウンターを許してトライを奪われ、前半は14-21で折り返した。
主導権を握りながら、リードを奪われる展開は嫌な空気が流れてもおかしくないが、サンウルブズは「次にやるべきプレーに集中しました」(CTBマイケル・リトル)と、ミスをした選手を励まし、タフに戦い続けた。後半開始早々にブルズのSOハンドレ・ポラードにPGを決められたが、ブルズの波状攻撃を粘り強いタックルで止め続け、後半6分には、ラインアウトからの左オープン攻撃でWTBセミシ・マシレワが抜けだし、ファンデンヒーファーが左コーナーにダイブ。パーカーが難しい角度のゴールを決めて、21-24と差を詰めた。
直後、SH内田啓介に代わって田中史朗が投入される。「ちょっとゲームのテンポが遅いように思っていました。相手は疲れていたので、テンポを上げてついて来られないようにしました」。PKから速攻を仕掛けるなど、田中はグイグイと攻撃をリードする。「フミが勢いを変えてくれた」(ブラウンHC代行)。9分にトライを奪われるが、サンウルブズの勢いは止まらなかった。12分、ブリッツが山田のパスが相手の手に当たってコースが変わったところをキャッチしてトライ。28-34と6点のリードを奪われていた25分には、自陣でくぎ付けになったディフェンスから切り返す。まずは、マシレワの力強い走りでブルズ陣に入り、後半17分に交代出場の中村亮土がタックラーを惹きつけてブレグバゼにパスを送る。次にパスを受けたエメリーが左タッチライン際にロングパス、最後は後半20分に投入されたFLラーボニ・ウォーレンボスアヤコがタックルを受けながらリトルにつないで中央トライ。パーカーのゴールも決まって、35-34と逆転した。
その後はブルズの強力FWに波状攻撃を受け、ポラードにPGを決められ、35-37で逆転される。しかし、すでにブルズは運動力が落ち、余力が残っていなかった。サンウルブズは35分、ウォーレンボスアヤコが逆転トライをあげて42-37と勝ち越す。36分、最後の反撃に出たブルズにディフェンスを突破されそうになったが、ブルズのクリエルをリトルが倒し、中村がボールをがっちりつかんで反則(ノット・リリース・ザ・ボール)を誘った。中村の値千金のターンオーバーだった。その後は最後までブルズ陣で戦ってノーサイド。多くのサポーターが天に拳を突き上げた。
「地面に落ちたボールへの対応はサンウルブズのほうが早かった」と、ブルズのジョン・ミッチェルHC。試合直前、布巻は勝つために必要なことについて、「ブルズよりも多くアクションする。ミスしても次々にアクションして、相手を疲れさせたい」と語っていた。まさに、そういう試合ができたということだろう。
フルタイムのスタッツ(統計数値)では、ボール保持時間の割合でサンウルブズは42%、地域獲得では38%。苦しい戦いだったことが、ミスタックルは、ブルズの18回に対し、8回しかなく、この日の勝因が堅いディフェンスにあったことを証明している。また、戦略的に使ったキックは、ブルズの35に対して27と少なく、キックを多用した6月の日本代表とは異なる戦い方だった。HO堀江翔太、FLリーチ マイケルなど日本代表の主力組のコンディションを重視し、プレー時間の少ない選手で戦っての3勝目は価値がある。メンタル面も含めて、サンウルブズがチームとしてレベルアップしている証だった。ヘイデン・パーカーはこの日、6本のゴールをすべて成功させた。97%超の成功率は神業の域である。
「プロップとしてはスクラムでプレッシャーをかけられてしまい、そこで勢いを作れなかったことは反省しています」と浅原拓真がコメントしたように、スクラムでは苦しむ場面もあり、引き続き向上が必要だが、大事なところは耐え、スコアに直結する場面はなかった。前半、無理なクイックスローイングから失点。これについてはブラウンHC代行が「ブルズに対しては、クイックスローイングで攻めようと話していた。そうした動きが後半に生きたと思います」と、プレー時間を多くしてブルズを疲れさせるプランを遂行した中でのミスだったと説明した。
サンウルブズでは初めてNO8で先発した徳永は、勝因について「布巻、ヴィリーを筆頭にジャパン組とサンウルブズ組が早くコネクトできたこと」と説明した。日本代表とは別に調整を続けていたメンバーと日本代表選手を、この2人が中心になってまとめたということだろう。攻撃面はシーズン序盤から機能していたサンウルブズだが、何よりディフェンスの向上がこの日の勝利をもたらした。ブラウンHC代行は「失点は多かったのですが、ディフェンスは今季一番良い試合だったのではないでしょうか」と評価した。「チームとして自信がついて来ました。前に出るシステムがシーズン序盤はうまくいきませんでした。それが機能し始め、止めるだけではなくターンオーバーするところまでできはじめています」。
今シーズンは残り2試合となった。オーストラリアに乗り込み、同国代表選手を多数擁するワラターズ、そして、5月12日に秩父宮ラグビー場で勝利したレッズと戦う。この日のディフェンスをさらに磨くことができれば、4勝目、5勝目も狙えるはずだ。