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マッチレビュー 2018 ROUND 14 ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ vs. ストーマーズ text by 村上晃一

コラム5/19(土) 21:16
ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズの今季2勝目は、初ものづくしの劇的勝利だった。香港でスーパーラグビーが開催されたのは、史上初のこと。サンウルブズにとっては、連勝も、海外での勝利も初めて。もうひとつ言えば、ドロップゴールによる決勝点も初めてのことだった。5月19日、香港の旺角大球場(モンコックスタジアム)での戦いは長く語り継がれる死闘になった。

 

気温32度、湿度78%。強い日差しが選手たちの真上から降り注いでいた。当日のプログラムの表紙には、サンウルブズを「太陽狼隊」、ストーマーズを「風暴人隊」と表現する漢字が躍っていた。午後1時15分、試合は、太陽狼隊ボールのキックオフで始まった。

 

先制したのはストーマーズだった。サンウルブズSOヘイデン・パーカーが、左タッチライン側にいたWTB福岡堅樹にキックパスを送る。福岡が相手選手と競り合って地面に倒れたところで、こぼれ球をストーマーズWTBディリン・レイズが拾う。サンウルブズはやや対応が遅れた。この日でスーパーラグビー50試合目の節目だったレイズは、約70mを走り切り、FB松島幸太朗のタックルを受けながら右コーナーにボールを押さえ、0-5とする。

 

この後のサンウルブズは、スクラムで反則をとられ、ボール争奪戦でも巨漢選手の揃うスート―マーズに圧力を受けて苦しい戦いを強いられた。前半21分、自陣でターンオーバーして反撃に出るところで、NO8ヴィリー・ブリッツのパスをインターセプトされ、2本目のトライを奪われる。スコアは、0-12。

 

サンウルブズが反撃の狼煙をあげたのは、24分、ハーフウェーライン付近のラインアウトからの攻撃だった。CTBマイケル・リトルが突進すると、そこでできたラックの横をSH田中史朗がすり抜け、CTBティモシー・ラファエレ、パーカーとボールがつながり、7-12と点差を詰める。33分にストーマーズのレイズに再びトライを奪われたが、パーカーがPGを返し、前半は10-17と7点のビハインドで折り返した。

 

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは言った。「前半はソフトなトライを獲られてしまった。ハーフタイムにそこを修正しました」。タフな環境の中で互いに我慢の時間帯が続いたが、後半、先にスコアしたのはサンウルブズだった。17分、自陣のスクラムから連続攻撃を仕掛け、最後は、田中、パーカー、松島、リーチ マイケルとボールが渡り、リーチはタックルを受けながら内側に走り込んできたLOグラント・ハッティングにパス。インゴール中央に走り込んで、17-17の同点に追いつく。

 

照り付ける太陽の下で、太陽狼隊は我慢強く戦っている。アジアのチームを応援する香港の観衆の大歓声がその勢いを後押した。後半20分過ぎ、交代出場のヘル ウヴェが密集で相手ボールを奪って反則を誘い、PKからパーカーがPGを決めて、20-17とリードする。サンウルブズは自陣からもロングタッチキックではなく、追いかける選手が競り合えるハイパントを多用し、ストーマーズにプレッシャーをかけた。しかし、後半31分、自陣のスクラムで反則をとられ、ストーマーズのSP・マレイに同点PGを許す。この後、攻め込んだサンウルブズがトライを獲り切れず、34分、マレイに約55mのロングPGを決められ、20-23とリードされてしまう。

 

やはり連勝は難しいのか。だが、サンウルブズはあきらめなかった。PRクレイグ・ミラー、LOヘル ウヴェ、FL徳永祥尭、HOジャバ・ブレグバゼら交代選手がアグレッシブにプレーし、同じく交代出場のSH流大を軸に素早いテンポでボールを動かしていく。そして、40分、残り時間僅かのところで、パーカーが直線距離で約50mのPGを決め、23-23の同点とする。直後、ストーマーズのキックオフからは引き分けでは終わりたくない両者による手に汗握る攻防が繰り広げられた。

 

自陣で防戦一方に追い込まれたサンウルブズだが、反則をしないようにタックルを続け、42分になったところで、ブレグバゼが相手ボールを奪う。最後のチャンスが巡ってきたのだ。自陣からの攻撃でパーカーが防御背後に蹴り上げたボールを福岡がキャッチして相手陣へ入る。一人一人が大切にボールをキープし、22mライン中央までボールを運ぶ。その直前、パーカーが通常の位置よりも深く下がった。ボールは、流からまっすぐパーカーへ。

 

「その前のフェイズで、パーカーからドロップゴールの声がかかっていたのですが、僕としては、もう一つ前に行かせてからパスしたかったので」と流。正確なパスをパーカーに送ると、パーカーは相手のプレッシャーを浴びながら、利き足ではない右足でドロップキック。低い弾道のキックがゴールポストに吸い込まれ、レフリーの笛が高らかにゴール成功を告げた。サンウルブズサポーターが拳を天に突きあげる。その直後、ノーサイドの笛が鳴った。飛び跳ねるサンウルブズの選手たち。観客席は異様な興奮状態に包まれ、劇的な幕切れに酔いしれた。

 

興奮冷めやらぬピッチ上で勝利の立役者であるパーカーの言葉が弾んだ。「本当は左足で狙っていたのですが、右でしか蹴れない位置だったので思い切って蹴りました。香港には絶対に勝つという気持ちで来たし、チームの自信になる勝利です」。勝利の瞬間、コーチズボックスも揺れた。弾けるような笑顔を見せたジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「パーカーは暑いなかで、よくゲームをコントロールしてくれました。基本スキルも素晴らしい」と、キックの個人練習を欠かさない努力家を称えた。

 

敗れたストーマーズのロビー・フレックヘッドコーチは潔くサンウルブズを称えた。「我々にとって、とても重要なゲームでした。勝てるチャンスはありましたが、サンウルブズはボールを展開して攻めることに自信を持っていた。称賛したいと思います」。

 

前半は簡単にトライを許し、流れは悪かったが、最後まで我慢を続けたことにチームとしての成長が現れていた。スクラムで反則をとられたほか、全体のペナルティ数がストーマーズの3に対して9と規律の部分で課題はあるが、タックルの成功率は87%で、82%のストーマーズを上回り、攻撃面ではストーマーズの倍の14回のクリーンブレイク(ディフェンスをクリーンに突破する回数)、ミスタックルを誘うディフェンス突破も25回で、ストーマーズの11回を大きく上回った。それでも、わずかなスキを見せると、スーパーラグビーではあっという間にトライを奪われる。その厳しさを感じたからこその価値ある勝利だった。
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