ヒトコム サンウルブズ公式サイトヒトコム サンウルブズ公式サイト

マッチレビュー 2018 ROUND 13 ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ vs.レッズ text by 村上晃一

コラム5/14(月) 19:42
ひとつ一つのトライに歓喜の笑顔が広がった。悔しくて、苦しかった日々は、この感激のためにあったように思えた。ヒト・コミュニ―ケーションズ サンウルブズ、10戦目にしての今季初勝利。おめでとう! 今季国内最終戦で、応援し続けたファンの皆さんに感謝の勝利をプレゼントできたことが、選手にとっては何より嬉しいことだろう。



5月12日、秩父宮ラグビー場には、9連敗という戦績の中で、12,386人の観衆が集った。対戦相手のレッズは、ここまで4勝5敗。オーストラリアカンファレンス3位。スクラム、ラインアウトのセットプレーに強みを持ち、オーストラリアきっての突破力を誇るPRタニエラ・トゥポウ、CTBサム・ケレヴィを擁する。しかし、若い選手が多く攻守にプレッシャーをかけ続ければ、ミスや反則を犯す可能性のあるチームでもあった。



午後12時5分、サンウルブズのSOヘイデン・パーカーがキックオフのボールをレッズ陣深く、高く蹴り上げた。これをWTB福岡堅樹が抜群のスピードで追い、低いタックルを決める。続いて、レッズSHベン・ルーカスにFW陣がプレッシャーをかけて、LOグラント・ハッティングがキックをチャージ。前に出続ける意欲を示す好スタートだった。その後、レッズがキックチャージに出る選手を邪魔する反則を犯し、パーカーが先制PGを決める。開始2分のことだった。



この日最初のラインアウトは3分、自陣の中盤あたり。ここはLOヴィンピー・ファンデルヴァルトがクリーンキャッチ。続くファーストスクラムでも、相手のプレッシャーを受け止め、CTBマイケル・リトルの突破につなげる。課題だった2つのセットプレーも安定のスタートだった。リトルの突進後にレッズの反則を誘い、約25mの距離のPGをパーカーが決めて、6-0とリードを広げた。



しかし、直後のキックオフからの攻撃ではリトルがノックオン、その後ディフェンスラインがオフサイドを犯し、ゴールラインを背負ってのラインアウトから、モールでトライを奪われる。スコアは、6-7。パーカーのPGで再び9-7と逆転したが、19分に自陣でハイタックルの反則をとられ、同じようにPKからタッチキック、ラインアウトからのモールで圧力を受け、モールサイドをSHルーカスに突破されてトライを許す。連敗中の課題だった自陣でのミス、反則による失点で9-14とされ、暗雲が垂れこめた。



嫌な流れを断ち切ったのは、直後のキックオフの攻防での2つのプレーだった。まずはハッティングがレッズのルーカスのキックをチャージ。跳ねたボールが偶発的にレッズの選手に入り、大きく攻めこまれるかと思いきや、レッズのPRトゥポウにサンウルブズのCTBティモシー・ラファエレが突き刺さるタックルを見舞ってノックオンを誘ったのだ。その後はトライを狙っての連続攻撃、たまらずレッズが反則し、パーカーが4本目のPGを決めて12-14。30分にはハッティングがPRクレイグ・ミラーにパスを送って大幅ゲイン、ハッティングがサポートして逆転トライをあげた(19-14)。



そして33分、観客を大いに喜ばせるトライが生まれた。前半33分のことだ。スクラムからの連続攻撃で、交代出場のFBジェイソン・エメリーが防御背後に地面を這うキックを蹴ると、これを追った福岡が相手と交錯しながらもボールを確保。レッズ陣中盤の右中間に起点ができる。ここから大きく左オープンにボールが回る。ロングパスを受けようとするのはNO8姫野和樹だ。このとき、レッズのCTBクリス・フェアウティ=サウティアが猛然と迫っていた。「ひめの~!」、チームメイトの声が聞こえる。姫野は「なにか来るのかな? と思って、ちょっとだけ身構えました」と体を固くした。そこにサウティアの強烈なタックルが飛んで来る。しかし、姫野はこれを弾き飛ばすと、くるりと体を反転させて前進してパスを送った。今季、サンウルブズの試合にもっとも長い時間出ている男の頼もしいプレーだった。その後ボールはハッティング、リトルに渡り、リトルがタックルを受けながらのオフロードパスをパーカーにつなぎ、左中間インゴールに滑り込んだ。エメリーのキックに福岡が走り込むプレーは練習で準備されていた。一つ一つのタイミングが紙一重で決まった胸のすくトライだった。さらにPGを加え、前半を終えて、29-14。パスとキックを駆使して縦横無尽にボールを動かすサンウルブズの攻撃は、レッズの攻撃を色褪せさせた。



後半の先に点を取ったのは、サンウルブズ。1分、パーカーが6本目のPGを決める。10mライン付近から直線距離で約50mはあるPGだった(32-14)。多くの観客にとって、勝利が明確に見えてきたのは後半14分のトライだろう。レッズ陣10mライン右のラインアウトからリトルが前進、リーチ、ハッティング、ラファエレがつないでゴールに迫り、最後は密集サイドをWTBホセア・サウマキが駆け抜けて左コーナー滑り込んだものだ。難しいゴールをパーカーが決めて、39-14とする。



その後は、レッズに2トライを奪われたものの着々と加点した。後半29分、エメリーのインターセプトからの独走では、右コーナーにトライする直前にハイタックルを受け、これがペナルティートライの判定。49-28で迎えたノーサイド直前には交代出場のSH田中史朗、CTB田村優の活躍もあってサウマキが2トライを追加した。交代出場のHO庭井祐輔は「最後にタッチに蹴り出して終わるのではなく、トライを獲り切ったことこそ、チームの成長の証」と語った。最終スコアは、63-28という大勝だった。



「(勝てない時期が)長かったですけど、皆さんの応援のおかげで勝つことができました。きょうのメンバー23人だけではなく、コーチも含めチーム全員で良い準備ができたからこその勝利です。ゲームプランを信じてやり切りました。自信になる勝利です」(流大キャプテン)。ジョセフヘッドコーチは選手を称えた。「この勝利はサムライズではありません。結果は出ませんでしたがチームは成長していました。選手はあきらめることなく、毎試合の内容を反省し、改善し、努力した。みんな本当によく頑張りました」



ヘイデン・パーカーは、難しい角度や距離も多かった中で、プレースキックを100%成功させた。1トライ、5ゴール、7PGと、一人で36点を稼いだ。彼のキックでスコア上のプレッシャーをかけ続けたことは勝利の大きな要因だ。もちろん、ディフェンスのコミュニケーションが良くなって、数的優位を作らせず、タックルミスが少なかったことも評価できる。タックル成功率は、レッズの79%に対してサンウルブズは89%だった。課題だったラインアウトの成功率でも、91.7%と、レッズの83.3%を上回った。キックの使い方、パスをするかしないかの判断も的確で、総じて集中力高くプレーできた。課題の修正を丁寧に積み重ねてきたからこその勝利だろう。日本代表キャプテンであるリーチ マイケルの復帰も大きかった。チームに魂が入った気がした。



スーパーラグビーの経験豊富な田中史朗はこうコメントしている。「スーパーラグビーで勝つというのはとても大変なこと。それがみんなにも伝わったと思うし、世界レベルの中で勝利したということが自信にもなったと思う。でも、今回だけではただのラッキーになってしまうから、次節も勝って、世界にサンウルブズには力があることを認めてもらうことが大事」。次の戦いの舞台は香港。相手は南アフリカのストーマーズだ。その言葉通り、世界的に高く評価される戦いを繰り広げてもらいたい。
CONTENTS
スローガン