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スーパーラグビー2017 ROUND 7 ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ vs ブルズ
マッチレビュー

コラム4/10(月) 10:55
待ちに待った今季初勝利は、ホーム秩父宮ラグビー場で成し遂げられた。
4月8日、小雨のぱらつく悪天候の中、12,940人の観客が両チームの激闘に声をからした。ここまで5連敗のヒト・コミュニケーションズ サンウルブズにとっての課題は、組織ディフェンスの改善だった。サンウルブズ、日本代表のプレースタイルは、戦略的キックを多用しながら陣地を進め、ディフェンスをかく乱し、効率よく得点するものだ。そのためには、キックで相手に渡したボールを再獲得するディフェンスが必要になる。
試合後、ゲームキャプテンを務めたティモシー・ラファエレほか、多くの選手が「キックチェイス(キックを追いかける動き)が向上した」「ディフェンスのコミュニケーションが良くなった」とコメントした。

14:15のキックオフ直後から、サンウルブズは素早いテンポでボールを動かした。開始2分、FW陣を引っ張るLOリアキ・モリが、ハーフウェーライン付近で相手ボールを奪って連続攻撃を仕掛け、SH田中史朗のパスでHO庭井祐輔がゴールに迫る。5分、SOヘイデン・クリップスのPGは惜しくも外れたが、直後、そのクリップスが防御背後にショートパントをあげ、CTBティモシー・ラファエレが走り込んで確保し、最後は田中、クリップスと渡ったパスを受けたNO8ラーボニ・ウォーレンボスアヤコが持ち前のスピードで左コーナーに飛び込んだ。スーパーラグビー・デビューとなった21歳のトライに、スタジアムが歓喜に包まれる。

12分、相手ボールのラインアウトから、ブルズのCTBバーガー・オデンダールにディフェンスを破られトライを奪われたが、それ以外はPR山本幸輝、FL徳永祥尭らの激しいタックルを筆頭にディフェンスでよく前に出た。満を持してサンウルブズ・デビューを飾ったFB松島幸太朗が好フィールディングを見せるなど一歩も譲らず、拮抗した攻防となる。
「キックチェイスの向上」がはっきり見えたのは前半20分あたり。ブルズのカウンターアタックに対して山本と庭井がダブルタックル、倒した相手のボールに庭井が絡み反則を誘った。この反則で得たPGをクリップスが決めて、11-7とリードを広げる。

その後、PGを返されたが、キックオフの時はWTB中鶴隆彰、福岡堅樹が俊足を生かしてキャッチした選手にプレッシャーをかけるなど、サンウルブズは各選手が与えられた役割を骨惜しみせずに果たしていた。
前半を終えて、11-10と1点差のリード。後半は、SO田村優はじめ交代選手を次々に投入し、戦術も変更する。田邉淳アシスタントコーチは言う。「前半はコンテストキック(相手と競り合うようなキック)を使ったのですが、キックチェイスが良かったこともあって、後半はロングキックに変えました。また、今日の控えメンバーはインパクトを与えられる選手たちだったので、早めに交代させました」。相手の目先を変えることもあるが、ロングキックを蹴り、相手と間合いのある状況でも、この日のチェイスであればリスクは少ないという判断だろう。

後半は、田村が的確なキックとパスでゲームをコントロールし、LOサム・ワイクス、FL布巻峻介、PR稲垣啓太、HO木津武士、CTB山中亮平ら控え選手が、前に出るタックル、力強い突進で勢いを与えた。
23分、ミスからブルズのWTBトラビス・イズマエルにトライを奪われ、11-20と引き離されたが、誰もあきらめなかった。
後半28分、山中からパスを受けた松島がゴールラインに迫り、パスをすればトライというシーンを作る。タックラーをかわそうとして捕まってしまい、「僕のせいで負けるのかと思った」(松島)と、痛恨のシーンになるかと思われたが、そうはならなかった。28分、ブルズのCTBヤン・サーフォンティンがシンビン(10分間の一時退場)になり相手が14人になったところで、サンウルブズはゴール前左隅でスクラムを得る。ここからの攻撃でゴールラインに迫り、最後は田村が右端に待っていた中鶴にふわりとしたやわらかいパスを送ってトライ。18-20と差を詰めた。
「田村さんから、『外に立っていろ、パスをするから』と言われていたので待っていました。最高の瞬間でした」(中鶴)。

そして、34分、田村が逆転のPGを決める。21-20。あとは懸命のディフェンス。前に出続けるサンウルブズの選手たちを後押ししようと、スタジアムが一体となった。37分、ブルズがPGを狙うシーンがあったのだが、わずかにゴールを逸れ、最後は交代出場のSH矢富勇毅がボールをタッチに蹴り出して、歓喜のノーサイドとなった。

勝利の立役者となった田村は、国内シーズン終了後、コンディションニングのために試合に出ていなかった。「こんなに試合をしなかったことは(過去に)ありません。久しぶりの試合を楽しめました。南アフリカツアーで苦労した皆の力になれてうれしいです。後半、(サンウルブズの)プレーの質が一段階上がったので、やりやすかったです」。

「みんな、ディフェンスで我慢できた。ディフェンスのラグビーを理解してきたということだと思います」。冷静な手綱さばきで勝利に貢献した田中史朗がチームの成長を称えた。
簡単な勝利ではなかった。スクラム最前列で戦ったPR山路泰生は「ブルズのスクラムは、重くて、強かったです」と感慨深げに語った。田邉コーチは勝因の1つについてこう話した。「前半からキックを使って(体力の)消耗を抑えたことで、残り20分にエネルギーを残せた。最後まで前に出るディフェンスにもつながったと思います」。まさに狙い通りの初勝利だったわけだ。

共同キャプテンのエドワード・カーク、立川理道を負傷で欠き、FWの中心であるヴィリー・ブリッツがご家族の不幸で帰国する中での勝利は価値がある。先発の田中、松島、後半登場の田村、稲垣、木津ら2015年のラグビーワールドカップを経験した選手たちが活躍したことも心強い。サンウルブズを応援し続けたファンの皆さん、チームを支えたスタッフなど、サンウルブズに関わる全ての人の努力が報われる勝利だった。

1つ付け加えておきたい。
試合後、ブルズのキャプテンであるアドリアン・ストラウス選手が、悔しい敗戦後にもかかわらず、サンウルブズの戦いを称え、観客の皆さんに感謝の言葉を述べていた。ラグビーは試合結果にかかわらず、勝者、敗者の品位ある振る舞いを大切にしてきた。ストラウス選手は、ラグビー憲章にある「尊重」「品位」を体現していた。尊重とは、チームメイト、相手チーム、レフリーほか、ゲームに参加するすべての人を尊重するという意味だ。スーパーラグビーで学ぶべきは、世界トップレベルの技術や戦術だけではなく、選手のレフリーに対する態度、試合後のキャプテンのコメントも含むラグビー文化だと思う。サンウルブズのスタッフ、選手、そしてサポーターの皆さんも、そうしたことを発信する存在であってほしい。

©Photo by Ken Ishii/Getty Images
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