開幕戦マッチレビュー
新時代の幕開けを告げるキックオフ
2016年2月27日、秩父宮ラグビー場には新時代の幕開けに胸躍らせる人々が集った。その数、19,814人。世界のプロラグビーを牽引してきたスーパーラグビーのレベルで、初参戦のサンウルブズがどこまで戦えるのか、期待と不安の中、午後1時15分、記念すべき試合が始まった。
先蹴りは、南アフリカから20時間以上のフライトで初来日したライオンズ。このボールをキャッチしたのは、サンウルブズの最年長・大野均だった。日本代表最多キャップ96を誇りながら、「まさかこの歳でスーパーラグビーにデビューできるなんて」と誰よりも素直に喜びを語っていた男がボールを大切にキャッチした時点で、すでに涙腺の緩んだ人が多かっただろう。
前半6分、SOトゥシ・ピシのPGで先制したサンウルブズは、スクラムでは圧力を受けたが、低いタックルで粘り、攻めてはSH日和佐篤、SOピシを軸にボールをテンポよく動かした。しかし、18分、自陣での反則からゴールラインを背負った位置で相手ボールのラインアウトとなり、モールを組まれてトライを許してしまう。このまま突き放される可能性もあったが、ライオンズのSOエルトン・ヤンチースのキックが不調で、このトライ後のゴールの他、2本のPGが外れたのはサンウルブズには幸いした。
23分、CTB立川理道がディフェンスラインを大きく突破したが、これはLOティモシー・ボンドがディフェンダーの進路を妨害した反則をとられる。29分にFLアンドリュー・デュルタロがラックサイドを抜け出してトライかと思われた場面は、ラックからボールを持ち出せるのは最後尾の選手だけというルールに反するなど惜しいシーンが相次いだ。
2トライ目を献上したのは、前半33分だった。自陣深く攻め込まれたところで、ライオンズSOヤンチースが左オープンに攻めると見せて、内(右)側に走り込んできたWTBコートナル・スコーサンにパスを返し、そのままスコーサンがトライまで走りきる。密集サイドのディフェンダーと、外側をカバーしようとするディフェンダーの間隔が広くなり過ぎていたところを突かれる失トライだった。ピシがPGを返して前半は6-12で折り返す。 何度も訪れたピンチは、全員が素早く戻ってディフェンスラインを整え、デュルタロ、NO8エドワード・カークらが激しくボールに絡んで反則を誘った。BKラインで数的優位を作られそうになる場面では、WTB山田章仁が判断良く飛び出してパスを遮るなど絶妙の位置取りでチャンスの芽を摘んだ。スクラムも徐々に改善され、十分に手ごたえを感じる前半の戦いだった。
6点を追い、後半へ
後半の立ち上がりは、ライオンズが攻勢に出る。南アフリカ代表でもあるFLヤコ・クリエルのトライで、6-19と突き放すと、サンウルブズの反則で得たPKで連続してスクラムを選択し、FWを粉砕して勝負を決めにきた。劣勢のスクラムに苦しむサンウルブズFWに、観客席から「がんばれ!」と悲鳴にも似た声が届く。熱い声援に応えるようにサンウルブズFWが押し返してボールを奪うと、この日一番の歓声が沸き上がった。選手と観客の強い絆を感じるシーンだった。
勢いに乗るサンウルブズは、ここから連続攻撃を仕掛け、ラックを連取しながらゴールラインに迫る。そして、18分、SH日和佐の背後から走り込んだ堀江翔太キャプテンがインゴール左中間にトライ。待ちに待った初トライに秩父宮ラグビー場が歓喜に沸いた。「チームとして前進し、チームで動くなかで、目の前のインゴールに置いただけ。ラッキーでした」。歴史に残るトライを決めた堀江は、試合後、チームのトライであることを強調した。
スコアは、13-19。1トライ1ゴールで逆転できる点差となり、観客のボルテージもさらに高まったが、後半26分、ライオンズのCTBで昨季はクボタスピアーズでもプレーしたライオネル・マプーにトライを奪われ突き放された。パワフルな突進でこのトライを演出した交代出場のHOマルコム・マークスは再三タックルを弾き飛ばし、インパクトプレーヤーとして存在感を示した。 その後も、何度も攻め込まれたサンウルブズだが、交代出場の真壁伸弥がターンオーバーを勝ち取るなど、一人一人が体を張ってゴールラインを死守した。最終スコアは、13-26。悔しい敗戦だが、観客席からは短い準備期間で健闘した選手達に温かな拍手が送られていた。
「選手達が100%の力を出し切って戦ってくれたのは嬉しかったです。スーパーラグビーのスピードに対応できることが分かったし、ディフェンスもよく機能していました。選手が一致団結し、新たな歴史を作ることにプライドを持っていると感じました」(マーク・ハメットヘッドコーチ)。 堀江キャプテンは、秩父宮ラグビー場でスーパーラグビーの試合が行われたことに「夢のような時間でした」と話し、こんなコメントを残した。「ライオンズはフィジカルが強かったです。何度も大きくゲインされましたが、絶対に勝つ気持ちで戦ったし、みんなが何度も戻ってディフェンスしてくれたのは嬉しかったです。信頼できる仲間が、どんどん増えました。一試合一試合ステップアップしていきたいと思います」。
次戦は、3月12日、シンガポールでのチーターズ戦となる。
©JSRA photo by H.Nagaoka