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ヒトコム サンウルブズ 2016シーズン総括 ~酷にして贅沢~

コラム7/29(金) 14:30
なんと酷で贅沢な旅であったことか。サンウルブズは、1勝1分け13敗で、スーパーラグビーの初めてのシーズンを終えた。開幕前、2月22日付のニュージーランド・ヘラルド紙の見出しを思い出す。「サンウルブズは100時間以上を機中で過ごす」。東京ベースの新チームのタフな移動についての記事だ。「移動距離は80,277km」。厳しい連戦だった。

 そして、そんなタフな移動と試合の連続は贅沢な鍛錬の場でもあった。実戦で具体的な課題を思い知り、その課題を修正、次なる実戦で実践、動きながら、倒し倒されながら、組み合いながら、肌で覚えて、微修正を施していく。これぞ強化だ。

 マーク・ハメットHC(ヘッドコーチ)は、7月18日の総括会見で言った。

「誰もがシーズンの最初よりもよい選手となった。そのことが勝利だ」

 一例がスクラム。初戦の対ライオンズで露呈したもろさは、4月15日の敵地でのチーターズ戦などヘビー級の試練を経て、シーズン終盤までにじわじわと改善された。

 記憶に新しいワールドカップに向けた強化はいわば「キャンペーン」だった。ジャパンは他国よりもむしろ長期的な鍛錬が可能でありスクラム指導も精緻と反復をきわめた。スーパーラグビーは違う。北半球のサンウルブズは直前まで国内リーグ・大会が続くので「プレシーズンの強化」は限られる。開幕後は、実戦と実戦のあいだを調整と修正にあて、鍛錬そのものは実戦のさなかにゆだねるほかはない。そのための条件は「反省しながら前へ進む」ことだ。闘争心を欠き、フィジカリティーでお話にならなければ、試合中に起きる万事を修正しなくてはならず焦点を絞れない。サンウルブズは、連戦のほとんどで激しく対抗する意思を示し、だから、こんどはスクラムというようになんとか的を絞れた。
 
 悲観の先に安堵があった。2月27日。東京・秩父宮。ウルフはライオンにウルフとして敗れた。13―26。あの快晴の午後、サンウルブズが歴史的初戦でぶつかった南アフリカのライオンズは、本執筆時点でファイナル進出の可能性を残している。よくコーチングされ、ひたひたと白星を重ねた。振り返れば強力な相手である。あるいは大敗もと心配されたが、そうはならなかった。

 ライオンズのワーレン・ホワイトリー主将は試合後の会見でサンウルブズをこう称えている。

「短い準備期間でよくぞここまで」

 近年のトップリーグ上位勢の充実と日本代表の厳格な強化、結果としてのワールドカップでの躍進が、選手の潜在能力を引き出した。だから、いわば、むき出しのままの第1戦でも抵抗はかなった。酷で贅沢な旅の途中にチームワークが芽生え、個の力は高まり、それがジャガーズ(ハグアルス)戦勝利、ストーマーズ戦のドローへと結ばれる。
リアン・フィルヨーン、エドワード・カークの凄みをたたえた献身はちっとも派手でないのにまぶしかった。

 さて悲観の先の安堵のその先は? タックル成功率(79%)、ラインアウト獲得率(77%)はワースト。
ディフェンスとセットプレーの腕利きコーチ、その領域を身上とする選手の参加はさっそく求められる。

ただし新しい指導体制となっても、初年度に表現した美徳、ボールを手にして走り回るスタイルはさらに磨くべきだ。観客と視聴者が負けても負けてもうしろ向きにならなかったのは、初参加のハネムーン期間だからではなく、試合そのものの魅力のおかげだ。未完のサンウルブズのラグビーはすでにおもしろかったのである。

©JSRA photo by H.Nagaoka
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