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コラム

ヒトコム サンウルブズ 2017シーズン総括 ~ブリッツ、迫った~

藤島大2017.08.04

熱烈なウルブズびいきの男がいる。ウルブズ、もちろんサンウルブズである。個性的なビールをそろえた小さなバーを東京都内で営む。都立高校と大学同好会で楕円球を追った。ニューヨークのレストランで腕を磨き、帰国、ちょうど「日本のチームがスーパーラグビーに参戦」の報に接して、以来、店の客に「それがいかに価値あることか」と説いては支持者を増やし、秩父宮のホーム試合のたびに20人近くを束ねてバックスタンドに陣取る。

 7月15日、対ブルーズのキックオフ前、その人物から短いメールが届いた。「きょうの試合がふがいなかったら来年は観戦しません。みんなを誘っては、という意味ですが」。その前の秩父宮での試合、5月27日のチーターズ戦(7-47)にひどく落胆していた。

 ブルーズ戦直後。またメール。「来年も観戦します。みんなを誘って」。58分後、もう1通。こちらには「2点の重み」とだけ記されていた。覚えておられるだろう。前半25分、ヴィリー・ブリッツが、インターセプトから独走の相手15番、マイケル・コリンズを、追いつけぬとわかって懸命に追いかけた姿を。中央に回らせなければ、もしかしたら2点をセーブできる。結果はゴールを決められたが、その姿勢に酒場の主人は胸打たれた。


第7節、ブルズ戦で勝利! ©JSRA photo by H.Nagaoka 

 以上、知人のストーリーを紹介したのは、まさに、そういうシーズンだったからだ。ウルブズは、大敗を喫し、次は善戦、気迫の薄い攻防の次戦で気力を振り絞り、たまにファンのハートを揺さぶる見事な勝利を挙げた。一貫性に欠ける。ただし、ずっと底にへばりついたままの一貫性よりはよい。

 一例。最上位級のチーフスにアウェイで20-27と迫り、しかし、敵地のライオンズには7-94の惨敗を喫する。ウルブズは多国籍、多文化の集団のはずだ。しかし、やはり「日本のチーム」のありかたは表れる。個のみならず、チームとして燃えて燃えて燃えないと戦えない。そうでない日はとたんに無力となる。

 ジャパンを率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)に先日、サンウルブズについて聞くと「選手は疲労していた。移動距離が平均の3倍、準備期間が他チームより2カ月も短いという条件では(不安定な成績の)理由を述べるのは難しい。アンフェアだ」と述べた。南半球のコンペティションに北半球のチームがひとつ混ざる。万事にひずみは生ずる。代表強化との連携を見すえれば、一定の数の選手を「ウルブズとジャパン専属」にするような手立ては必要だろう。


厳しいタックルにさらされた第15節・ライオンズ戦 ©JSRA photo by K.Demura

 そして、もうひとつ、そうした不利な条件であっても、大崩れをせず、観客と視聴者を裏切らぬ「防波堤」を築かなくてはならない。それをカルチャーと呼ぶ。この集団の一員である以上は常に全身全霊を捧げてプレーする。そんな文化のことだ。

 秩父宮のブルーズはウルブズの抵抗と蒸し暑さに崩れた。過去、スーパーラグビー3度制覇のスーパーなクラブは、昨今のカンファレンスでの低迷により、カルチャーをなくしかけている。6月にブリティッシュ&ライオンズを破ったのに、そこまで1勝の日本のフランチャイズに敗れた。はなはだ一貫性を欠いている。

 カルチャーはレベルを超越する。ブルーズに薄れた文化は、たとえばオークランドのどこかの学校には厳然とある。どんなに不利でも、いかに熱射にさらされても、敗北を逃れられなくとも、最後の最後まで戦い抜くという「常識」を少年たちが手放さない。これは日本国内でも同じだ。

 サンウルブズは、新しい集団なので、まさにカルチャーを醸成するための出発の位置にある。だからこそ2017年のスーパーラグビーでブルズとブルーズを破った事実、その具体的な攻守の質は貴重だ。そこを基準にすえられる。負けっぱなしでは「自分が何者なのか」もわからない。ぶっちぎりのランをなお追い続けるブリッツが体現してみせた文化を共有持続する。ここからのウルブズの努めである。

 ひどく負けたライオンズ戦に忘れがたい勇士がいた。金正奎。波に呑まれる苦しい展開にあって小柄なフランカーは抵抗を示した。読みとスキルの合わせ技であるターンオーバー。大波の発生源を断とうと決め打ちで飛び出すタックル。なんとかしよう。なんとかしなくては。そんな心構えにカルチャーの芽を見た。

 最後に。最後の最後の収穫を。具智元。ブルーズとの最終戦、右プロップで先発、堂々のスクラムを組んだ。「8人でまとまればいける。ブルーズはこちらがうまく組んだら、もうそこで押しにこなかった」。この5日後に23歳、体重は122㎏。負傷に泣いてきた若き大器の可能性が白星のフィナーレに証明された。


最終節・ブルーズ戦での勝利を喜び合うヴィリー・ブリッツ ゲームキャプテン ©Photo by Koki Nagahama/Getty Images